(1)下塗り・研磨工程
1. プレポリマー・目止剤の調合
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(写真1)
プレポリマー(産業用木固め剤)、エステロンカスタム目止剤(主剤・硬化剤の2種)、PS-NYシンナー、ボウル、深めの紙皿、ウエス、耐油性ゴム手袋(タフグローブやニトリルグローブなど)を用意する(写真1)。
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(写真2)
1-1. プレポリマーの調合
プレポリマー(本マニュアルではPS No.1000を使用)1に対して、PS-NYシンナーを2~3倍の割合で希釈し、ボウルを使って混ぜ合わせる。木固め剤は手に付着すると落ちにくいため、耐溶剤ゴム手袋して作業を行うとよい(写真2)。 -
(写真3)
1-2. 目止剤の調合
深めの紙皿に目止剤(主剤)と目止剤(硬化剤)を4:1の割合で調合し、よく混ぜ合わせる(写真3)。
※プレポリマーの量は、木地全体を浸せる程度、目止め剤の量は、木地全体の表面に塗り込める程度を目安に調合する。無駄が出ないように量を見極めることが大切。
2.木固め加工
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(写真4)
2-1. 木固め剤に木地を浸す
プレポリマーの入ったボウルに木地を浸し、木地が全体的に濡れ色になったらボウルから取り出す。取り出した後、PS-NYシンナーを軽く含ませたウエスで余分な塗料を拭き取る(写真4)。
※作業が終わったらすぐに目止め加工に入る。木固め剤は空気(湿気)に触れると硬化がすぐにはじまり、表面に小さな凹凸ができる原因となる。これを防ぐため、木固め加工後すみやかに、次の目止め加工をはじめる。
3.目止め加工
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(写真5)
3-1. 目止剤を木地に塗り込む
紙皿に入れた目止め剤を、新しいウエスに少量だけ取り、木固め加工後の木地に塗り込む。木地の内部に木固め剤を閉じ込めるように、木地の表面全体に擦り込む。(写真5)
4.乾燥・研磨工程
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4-1. 木地を乾燥させる
目止め加工後の木地を伏せて置き、ホコリの立たないところで5時間以上、乾燥(硬化)させる。 -
(写真6)
4-2. 乾燥(硬化)後の木地を研磨する
乾燥(硬化)が終了したら、#400の耐水ペーパーで表面についたゴミや、塗料のムラを取る。耐水ペーパーは水に濡らさずそのまま使用する。研磨中、木地自体を削らないように注意する。(写真6)
(2)スプレーガンの調節
1. スプレーガンのダイヤル調節
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(写真7)
中塗り工程に入る前に、中塗り工程、上塗り工程で使用するスプレーガンの調節をする。調節方法はガンの種類や、ガンのメーカーによって異なるが、本マニュアルでは、アネスト岩田株式会社のW-71(スプレーガン)とPC-4S(ガンカップ)を使用する。(写真7)
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(写真8)
1-1. 塗料の広がりの調節
写真8で示したスプレーガンの1のつまみで排出される塗料の広がりを調節する。つまみを開けると塗料が広がり、閉めると塗料の広がりが狭くなる。 -
1-2. 塗料の吹出し量の調節
写真8で示したスプレーガンの2のつまみで吹出される塗料の量を調節する。つまみを開けると塗料の吹出し量が増え、閉めると吹出し量が減る。 -
1-3. 吹出される空気の圧力の調節
写真8で示したスプレーガンの3のつまみで塗料と一緒に吹出される空気の圧力を調節する。つまみを開けると圧力が高くなり、閉めると低くなる。
2. スプレーガンの調節
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(写真9)
2-1. 塗料の広がりを調節する
一般的な器を塗装する場合、塗料の広がりは、つまみを一番広げた状態から半回転(180度)閉めた状態が適切である(図9)。 -
(写真10)
2-2. 塗料の吹出し量を調節する
一般的な器を塗装する場合、塗料の吹出し量は、つまみを一番閉めた状態から一回転半開けた状態が適切である(写真10)。 -
(写真11)
2-3. 吹出される空気の圧力を調節する
一般的な器を塗装する場合、エアートランスフォーマーで空気の排出量を1〜1.5気圧に調節し、つまみを全開にしている状態が最適である(写真11)。
3. スプレーガンのメンテナンス
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(図12)
3-1. 洗浄
カップに残った塗料をすべて出し、カップの中にシンナーを入れ、付属のブラシでカップの内外をよく洗う。カップの蓋を閉めてシンナーを噴出しながら、ブラシを使いスプレーガンの先や吹出口に付着した塗料を取り除く。 -
(図12)
3-2. 保管
スプレーガンを使用後、しばらく塗装を行なわない場合はスプレーガンを分解し、塗料の吹出口と空気の吹出口のパーツのみシンナーに浸けておく。
※分解し保管する際にニードルという、塗料の吹出し量を調節するための針がある。これの先を曲げないように注意する(図12)。
(3)中塗り・研磨工程
1.中塗り用塗料の調合
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(写真13)
1-1. 中塗り用塗料を紙コップで調合する
エステロンカスタムDXクリヤー主剤と硬化剤を2:1の割合で混ぜ、さらに同量のPS-NYシンナーを混ぜ合わせる(写真13)。 -
(写真14)
1-2. 中塗り用塗料をガンカップに入れる
混ぜ合わせた中塗り用塗料をろ紙で漉しながらガンカップに入れる(写真14)。
不純物がスプレーガンの中に入ると詰まりの原因になるため、ガンカップに塗料を入れる際は必ずろ紙(※)を用いてこしながら入れる。
※当会ではろ紙に十一製紙研究所製美吉野紙を推奨しています。
2.外側の中塗り加工
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一般的な器に塗装する場合、外側の塗装を行ない、乾燥工程を経た後、内側の塗装を行なう。
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(写真15)
2-1. 外側を塗装する
塗料が器全体にまんべんなく付着するように塗装台を回転させながらスプレーする。1回目の塗装が終わって、5-10分乾燥させた後、2回目の塗装をする。同様に5-10分乾燥させて3回目の塗装をする(写真15)。 -
(写真16)
2-2. 2~4時間、乾燥させる
気温や換気状態によって異なるが、木地を伏せた状態で2〜4時間乾燥させる。乾燥が十分でない場合、内側の中塗りのときに塗装台の上に木地を乗せると塗膜がはがれる。塗料が固まる前に木地を移動する場合は、写真16の持ち方で行なう。
3.内側の中塗り加工
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(写真17)
3-1. 内側を塗装する
外側と同様に、塗料が器全体にまんべんなく着くように塗装台を回転させながらスプレーする。1回目の塗装が終わって、5-10分乾燥させた後、2回目の塗装をする。同様に5-10分乾燥させて3回目の塗装をする(写真17)。 -
(写真18)
3-2. 乾燥させる
気温や換気状態によって異なるが、乾燥には8時間くらいかかる。塗料が固まる前に木地を移動させる場合は、写真18の持ち方で行なう。
4.水研ぎ
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中塗り後の乾燥を終えた木地は、塗りムラがあったり、ホコリやチリなどが付着していることがある。そのまま上塗り工程に入ると仕上がり時に影響するので、必ず研磨を行なう。
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(写真19)
4-1. 木地を研磨する
耐水ペーパー#800に水をつけ、中塗り後の木地を表面がなめらかになるまで研磨する(写真19)。木地を自然光に当てると塗りムラやホコリ、チリが確認しやすくなる。
※木地の縁の部分は仕上がり後に塗料がはげやすいため、研ぎすぎないよう軽く耐水ペーパーを当てて、塗料を厚めに残しておく。
(4)上塗り
1.上塗り用塗料の調合
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上塗り用にエステロンカスタムDXの7分消や全艶消を用いる場合は、主剤の入った缶をよく振っておく。主剤には仕上がり時の表面をつや消し状態にするために、艶消し剤(微細な粒子)が入っており、缶を振ることで粒子を均一に攪拌(かくはん)できる。
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(写真20)
1-1. 上塗り用塗料を紙コップで調合する
エステロンカスタムDXクリヤー主剤と硬化剤を2:1の割合で、さらに同量のPS-NYシンナーを混ぜ合わせる(写真20)。 -
(写真21)
1-2. 上塗り用塗料をガンカップに入れる
混ぜ合わせた上塗り用塗料を、濾紙(ろし)で漉しながらガンカップに入れる(写真21)。
※中塗り時と同様、不純物がスプレーガンの中に入ると目づまりの原因になるため、ガンカップに塗料を入れる際は必ず濾し紙を用いて濾しながら入れる。
2.外側の上塗り加工
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中塗りと同様、外側の塗装を行ない、乾燥工程を経てから内側の塗装を行なう。上塗りは外側、内側ともに1回だけ行なうため、塗りムラが出ないよう細心の注意が必要である。中塗り時の手の動かし方と同様に行なう。
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(写真22)
2-1. 外側に上塗り用塗料を塗装する
塗料を器全体にまんべんなく着くように塗装台を回転させながらスプレーする(写真22)。 -
2-2. 2~4時間乾燥させる
気温や換気状態によって異なるが木地を伏せた状態で2-4時間乾燥させる。乾燥が十分でないと、内側の上塗りのときに塗装台の上に木地を乗ると塗膜がはがれる。塗料が固まる前に木地を移動する場合は、写真16の持ち方で行なう。
3.内側の上塗り加工
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(写真23)
3-1. 器の内側に上塗り用塗料をスプレーする
外側と同様に、塗料が器全体にまんべんなく着くように塗装台を回転させながら塗装する(写真23)。 -
(写真24)
3-2. 約8時間乾燥させる
気温や換気状態によって異なるが、乾燥には8時間くらいかかる。塗料が固まる前に木地を移動させる場合は、写真16の持ち方で行なう。シンナー臭がしなくなったら塗装は完了である(写真24)。
※上塗り加工に失敗した場合には、3-4の研磨工程からやり直す。
マニュアル監修:辻翔平(ムクロジ木器代表)
このマニュアルは九州産業大学大学院での修士論文の一部を抜粋したものです。学生時代より木器作りをはじめ、卒業後はインテリア商社へ就職。2015年に独立し、山口県下関市で木工制作をしています。
木器制作には一貫してプレポリマーとエステロンカスタムDXシリーズを使っています。塗膜を薄めに施工しても強度があるため、木質感を損なわない点が気に入っています。使用頻度によりますが、私が使っている器は10年経っても美観を保っています。摩耗で塗膜がはがれてしまっても、塗り直しは比較的容易に行えます、食品衛生法をクリアしているので、お客さまに安心してすすめることができます。
塗装の世界は奥が深く、現在も試行錯誤を重ねています。学生時代の初心を忘れないように、私自身もこのマニュアルをたまに読み返しています。施工の一例としてごらんください。