漆のように木に浸透し、木質を強化する合成樹脂
木材は一般的に多孔質かつ親水性で、水分を吸うとふくらみ、乾燥すると水分を放出して縮む性質があります。これが木材の長所でもあり、短所でもあります。膨張と収縮をくり返すことで、木材は変形や割れなどの「あばれ」が生じます。
木固めエースは木材の親水性を低下させ、木質を強化することを目的に開発された浸透性のポリウレタン系樹脂塗料です。木固めエースは、木材の細胞壁の成分(セルロース)や水分と重合反応し、硬化します。硬化すると無色透明の高分子樹脂となるため人体に無害で、耐水・耐油・耐摩耗性にもすぐれています。
こうした特徴から木固めエースは、木の器やカトラリーなどの制作に適した木工塗料として長年支持されてきました。実際、岩手県の洋野町や北海道の置戸町では、地元産の針葉樹(エゾマツやトドマツ)に木固め加工を施し、公立の小学校や保育園の給食器としています。
ちなみに学校給食では消毒のため、食器を90度の熱湯に3分間浸すことが義務づけられていますが、このときの熱から器を保護し、耐水性を高めるのにも木固めエースが一役買っています。安全性も高く、ホルマリンや鉛などの重金属類を含まず、食品衛生法(合成樹脂製の器具および容器包装試験)に適合しています。
木固めエースを製造するのは、埼玉県久喜市にある化学メーカー、寿化工です。同社はもともと伝統的な漆の精製を行っていましたが、戦後、人工漆の開発に着手。1973年に文化庁の依頼で法隆寺など国宝級木造文化財の腐食を食い止める特殊な液体樹脂(プレポリマー)を開発しました。
木固めエースは、プレポリマーのすぐれた木固め性能を生かしながら、塗装に不慣れな人でも扱いやすいように粘度や乾燥速度を調整してあります。常温常圧でも浸透性にすぐれ、スプレーガンなどの道具がいらないため、プロの木工家やアマチュアの木工愛好家を中心に30年以上のロングセラーを続けています。
「木の質感を失わずに木質を強化する」という木固めエースの特性は、針葉樹でも大いに発揮されます。戦後拡大造林された針葉樹が収穫期を迎え、その活用が喫緊の課題となっている現在、木固めエースは針葉樹の新たな可能性を切り開く強力なツールとなってくれることでしょう。
木固めエース普及会事務局 代表 菅村大全