白木の箸は反りやすいから、木固め加工をしてからでないとお客様にお渡しできません。(西原慎一郎さん/箸屋一膳代表)

西原慎一郎さんは、温泉地として有名な大分県の湯布院町に工房兼ショップを構えています。業務用木固め剤「プレポリマー」のヘビーユーザーで、地元の身近な木を使った箸をスタッフとともに製作。出張販売にも積極的です。箸作りにプレポリマーが欠かせない理由をお聞きしました。

Q.木工の仕事をはじめたきっかけを教えてください。

もともとはホテルやレストランなどの業務用家具メーカーに勤めていました。工場もありますが、半分は商社のようなところで、私は営業職でした。26歳のとき、売るよりも作る仕事をしたいと思って仕事を辞め、木工関係の仕事を探すことにしました。

そんな矢先、湯布院町の木工所が地元の観光協会と手を組んで、木工職人の募集をしていることを新聞で知りました。5年以内に独立して、湯布院町に定住することが採用の条件だったので、ギリギリまで研修を受けてから、満を持して独立しました。この工房兼ショップは企業の保養所だったところを改装して、2009年にオープンさせました。

箸屋一膳店内の様子
温泉街の郊外にある工房兼ショップ。店内にはさまざまな樹種の箸が所狭しと並んでいる。

Q.箸を専門に作ろうと、最初から決めていたのですか。

木の器でもカトラリーでもなく、箸作りを選んだのは、身近でいつも触れるものが作りたいなと思ったからです。研修先の工房はショップが併設されていて、ときどき接客の仕事をすることもありました。そのとき、箸の長さや材質にこだわって選んでいる方があまりいらっしゃらないと感じました。

手の大きさはひとりひとり違うのに、世の中で売られている箸の長さはほとんど同じ。であるならば、「いろいろな木を使って、その人に一番あった箸を作れば、おもしろいんじゃないか」とふと思ったんです。そこで最初にはじめたのがセミオーダーの箸作りです。その人の手の大きさに合わせて、長さや太さ、くぼみの位置などをお聞きしながら作っています。

店内の展示物
お客様の理解を助けるために、箸が完成するまでの工程を解説したパネルを店内に掲示。

Q.どんな木で箸を作っているのですか。

自分が使っている木材は、ほとんどが地元の木です。街路樹やグラウンドの整備で、木が伐採されるとわかると、軽トラで真っ先に引き取りに行くようにしています。なるべく身近な木を使って、あえて着色はせず、元が何の木であるかがわかる箸を作っています。

倉庫にストックしている木材は30種類くらいで、店頭にはいつも12、3種類の箸を見本として並べています。よく使う木は、桜やクヌギ、栗や桑などです。お客さまからは、「湯布院の木だけで、こんなに種類があるなんてすごい」とよくいわれます。市場にはあまり流通しない木ばかりなので、好みにあう木をじっくり探して、買っていかれる方が多いですね。

上塗りの作業の様子。エステロンカスタムDX・全艶消をスプレーで塗装している。

Q.塗装の工程を教えてください。

木地調整をしたら、反り止めとしてプレポリマーを含浸させています。うちの場合、プレポリマーは樹種を問わず、 No.1000を使っています。その後、エステロンカスタムDX・クリヤーを使って中塗りを3回、同じエステロンの全艶消を使って、上塗りを2回行っています。塗装はスプレーガンで行っています。

塗装の工程は、研修先で教わった方法をほぼ受け継いでいますが、私が作っているのは箸なので、一部は自分なりにアレンジしています。以前は上塗りにエステロンカスタムDX・7分消を使っていたのですが、7分消はよく撹拌させないと、つやの加減が難しいんです。器と違って箸は表面積が少ないので、つや出しは必要ないと考え、上塗りは全艶消のタイプに切り替えてました。

目止め剤の塗り方も自分なりに工夫しています。箸は先端が傷みやすいので、ステンレスのパッドの中に目止剤を入れ、ウエスを使いながら全体にまんべんなく目止め剤が行き渡るようにしています。

使用しているプレポリマー
地元でとれた雑木を箸に加工している。プレポリマー(産業用木固め剤)はNo.1000を使用。

Q.木固め加工をせずに、表面だけ塗装する方法もありますが、そうしないのはなぜですか。

うちの工房では、材木店で買った木材ではなく、もらいうけた生木を自分たちで乾燥させています。4年ほど寝かせていますが、天候や樹種によって乾きが遅かったり、早かったりして均一ではないんです。だからプレポリマーを使って木固め加工をしておかないと、反ってしまうことが多いんです。お箸の場合、反りが出ると売り物になりません。なかには納品後に反りが出て戻ってきてしまう品物もありますが、全体からすればごく少数。木固め加工なしで納品するのは逆に不安になってしまいますね。

Q.白木の箸を作るうえでの注意点を教えてください。

箸先は歯に触れるので、塗料が均一に塗れていないと、のちのち問題が発生しやすいんです。長く使うと塗膜がはがれてきますが、そのとき木固め加工をしている箸と、木固めしていない箸では耐久性が違いますね。木固めしていると、表面の塗膜がはがれても黒ずみにくいようです。

余談ですが、うちの工房では、箸作り体験も行っています。オイル仕上げならお客さまがそのまま持って帰ることができていいなと思い、オイル仕上げも試してみたことがあります。ところがすぐに塗膜が消えて、黒ずんでしまうことが多かったんです。そんなこともあって、うちではお客様が体験で作った箸も、木固め加工をしてから発送しています。オイル仕上げに比べると手間もコストもかかりますが、耐久性において確実なのはやはりウレタン塗装ですね。

箸屋一膳外観
箸屋一善の外観。元保養所を改装した。店の奥が工房、2階が住居になっている。

西原慎一郎さん Profile
西原慎一郎(にしはら・しんいちろう)◎木工職人。箸屋一膳代表。1976年福岡県生まれ。大学卒業後、福岡県内の業務用家具メーカーに就職。2003年に大分県の湯布院町へ移住。木工デザイナーの時松辰夫氏(アトリエときデザイン研究所)に師事。2009年に箸作り専門工房の箸屋一膳を設立。直営店のほか百貨店での出張販売も行っている。 ホームページ:http://848ichizen.com/